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札幌高等裁判所 昭和28年(ラ)4号 決定 1954年12月01日

抗告人 高橋義隆

右代理人 宮岸友吉

相手方 鈴木隆信

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人宮岸友吉の抗告理由は末尾添付の別紙記載の通りである。

抗告理由一、について。

論旨は、まづ本件家屋明渡調停調書による執行行為は、一面その方法に於いて執行吏の遵守すべき執行手続法規に違反すると同時に他面債権者たる相手方はこれによつて抗告人の本件建物賃借権を侵害し、この債務名義に表示された家屋明渡請求権を不法に行使したこととなるから抗告人は此の後の事由に基いて民訴五四五条により右債務名義につき請求異議の訴を提起し得る筈でありこれに伴つて同法五四七条二項の申立をなし得ると言うが、債務名義に表示せられた請求権の行使が不法になされたというような事情はその債務名義に対する請求異議の原因となし得ないから、このような事情を主張してもやはり同条同項の申立をなし得ないことは論を俟たない。

その余の論旨は明瞭を欠くが、原審が強制執行の方法に関する不服申立は民訴五四五条でなく同法五四四条によるべきであると説示したのはこれ等の規定の性質上当然のことであつて、別に違法な手続による強制執行に対する救済の道を阻むものではないからこの点について基本的人権に関する憲法の規定を云為するのは当らないのである。

抗告理由二、について。

受訴裁判所が民訴五四七条二項によつて仮の処分を命ずる場合同項に掲げられた各種の処分の中どの処分を命ずるかは受訴裁判所が自由な意見に従つてこれを選択し得るのである。そしてこれによつて一旦或る種の仮の処分がなされた以上、その後は最早他の種の処分はこれをなし得ないものと解すべきである。

本件記録によれば抗告人はさきに旭川簡易裁判所に本件債務名義につき請求異議の訴を提起しこれに伴つて同条同項により本件強制執行の停止を求めたので同裁判所において昭和二十七年十二月十日強制執行停止決定がなされたことが明かであるから、抗告人は更に右債務名義に基く執行処分の取消を求めることは出来ないものと言はなければならない。

されば原審が抗告人の本件執行処分取消の申立を許容し得ないものと判断したのは結局正当に帰するのである。

抗告理由三、について。

原決定は、強制執行において執行吏の遵守すべき手続に関する不服申立に伴う仮の処分は同法五四四条一項によつてこれをなすべきことを判示し、次いで抗告人がさきに提起した前記請求異議の訴において前記のように一旦強制執行停止決定がなされた以上、別に新たな事実の主張立証がなされない限り、この請求異議の訴において更に新たな仮の処分を求めることは出来ないことを説明したのであつて、この後段の説明は執行吏の遵守すべき手続に関する不服申立について同法五四七条二項の申立を許すことを前提としているものではなく、抗告人の提起した右請求異議の訴について事を説いているのである。従つてこの点について別に原決定に理由のくいちがいはないものと言わなければならない。

よつて論旨はいづれも理由がないから民訴四一四条四〇一条九五条八九条を適用して主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 臼居直道 松永信和)

<以下省略>

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